与え続ける贈り物 食料安全保障と持続可能な生活のためのタイの探求

21/07/2021

与え続ける贈り物

食料安全保障と持続可能な生活のためのタイの探求

「水に魚あり、田に米あり」という言葉は、新鮮で手頃な食べ物が豊富なタイの自然の豊かさを表しています。タイ人の多くは、良質なタンパク質を手軽に摂取できる淡水魚についてよく知っていますが、すっかりお馴染みの名前であるにもかかわらず若いタイ人が正確な由来を知らない魚があります。それは「プラーニン」です。

プラーニンは、北アフリカと中近東の一部の地域に生息するシクリッド科(カワスズメ科)のマウスブルーダー(稚魚が巣立つまで、孵化したばかりの子を口の中で育てる口中哺育魚)で、科学者の間ではカワスズメまたはナイルティラピアとして知られています。英語ではその生息地からナイルティラピアと呼ばれ、タイ語のプラーニンという名前は、学名の略語から取った名前であると同時に、黒い魚(プラー=魚、ニン=黒)という意味を持っています。この丈夫な魚は、雑食性の草食魚としての多様性と3か月ごとの孵化周期が特徴であり、あらゆる淡水源での生息に適しています。この魚の物語はタイの宮殿の池で育てられた50匹のティラピアから本格的に始まりました。その子孫は、やがて何百万人もの人々を養うことになるのです。

ティラピアがタイで人気を博すようになったきっかけは、1964年に日本国の明仁上皇陛下が当時皇太子殿下であられた際に、タイを御訪問なさったことにまで遡ります。魚類学に造詣の深い皇太子殿下(当時)は、カセサート大学水産博物館を御訪問なさった際に、館内に展示されていた多くの魚類の標本を熱心に御覧になられました。その中で、タイで最初に発見されたハゼの標本に関心をお寄せになりました。

魚類に関する豊富な知識をお持ちの殿下は「これはスミス博士が発見した魚ですか?」と御質問なさったそうです。この御言葉には2つの理由から特別な意味があります。ひとつは、この魚がプミポン前国王の父君マヒドン・アドゥンヤデート親王に敬意を表して「Mahidol Goby Fish(マヒドンハゼ)」と名付けられた魚だということ。もうひとつは、この種が1953年に魚類学者の権威であるヒュー・マコーミック・スミス博士によって最初に発見され、命名されたということです。博士はプミポン前国王の叔父であるラーマ6世が、国の水生動物保護局を設立するのに携わり、後に初代局長に就任しました。

歴史的な御訪問により、現在の日本の上皇陛下とタイの前国王の間で魚類研究への御関心を通じた末永い友情が生まれました。この出来事をきっかけに、タイの一般家庭に安価なタンパク質源である「プラーニン」が普及していくことになります。美味しくて身が柔らかいプラーニンは人気があり、通常は揚げたり、焼いたり、他の食材と調理することによって、タイ料理ならではの「うまみ」を出すことが出来ます。

1965年、プミポン前国王はティラピアの寄贈について当時の明仁皇太子殿下に御手紙を送られ、皇太子殿下はそれに応えられ50匹のティラピアを贈られました。最初の稚魚は、国王の御住まいであるチッラダー宮殿の池で飼育されました。魚は宮殿を棲み処として瞬く間に繁殖し、10,000匹に上る稚魚が水産局に下賜されました。以来、ティラピアはタイ各地の水田や池、その他の水源で見られるようになりました。

つまり、タンパク質が豊富でボリュームたっぷりの食事が必要な人は、裏庭の池や水田、共同水源から容易に手に入れることが出来るのです。実は、田植え時期に水を張った水田で飼育できるように魚を稲作農家に紹介することは、前国王による独創的な御考案でした。稲作農家は、米の炭水化物と魚のタンパク質で必要な栄養素を十分に摂取することができます。また、農民は米の収穫を待つ間、魚を養殖することによって副収入を得ることもできます。

そのような高品質のタンパク質を手に入れることで、多くのタイ人は外部からの変化に対する強靭さ、つまり「自己免疫力」を得ることが出来ます。これは、飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養の改善を実現し、持続可能な農業を促進するというSDGsの目標2に従って、持続可能な食料安全保障を促進しながら、予期しない衝撃や外部からの保護のレベルを確保しようとするプミポン前国王御提唱の「足るを知る経済」(SEP)と一致しています。

王室の御支援と御指導により、水産局は大規模な商業養殖用のプラーニンの大量生産を可能にする養殖技術を革新することが出来ました。最新の技術で、親魚の口の中の状態を模倣する人工的なトレイの中に魚の卵を入れることで、自然な口内保育プロセスに伴う突然変異や早期死亡の割合を減らすことが出来ました。この技術のおかげで、プラーニンは現在、年間22万トンの養殖能力で大量生産が可能になり、全国で30万人以上の養殖業者がこの最新技術を採用しています。

養殖業者はまた、製品加工にも工夫を凝らしています。白身魚を市場に出すだけではなく、現代の消費者向けの加工品として、フィッシュチップスのような美味しいスナック製品やハーブ入り焼き魚など商品の多様化が進んでいます。そうすることで、漁師たちはまた中間業者の悪循環を断ち切ることを目指しています。

ナイルティラピア第一弾が最初にタイに到着して以来、水産局は飼育が容易で病気に強い新しい品種の改良に成功しました。そのうちの1つである「Chitralada3(チッラーダー3)」は、プロジェクトの一環としてモザンビークに持ち込まれ、地元の人々には追加の食料源として養殖方法が教えられました。プラーニンは故郷の大陸に持ち帰られ、モザンビークの孵化場では現在、チッラダー系統のティラピアの新しい幼魚を繁殖させることができるようになりました。

科学と動物学への愛情から生まれた友人への贈り物「ナイルティラピア」は、国境を越えて与え続けることができる贈り物です。年間数万トンのプラーニンが生産されており、タイ国内外の無数の家庭に安定した生活を提供しています。また、食料安全保障や経済的繁栄を支援し、「足るを知る経済」に沿った確かな収入源となっています。

駐日タイ王国特命全権大使
シントン・ラーピセートパン






 

参考: Japan Times

https://www.japantimes.co.jp/2021/07/19/special-supplements/gift-keeps-giving-food-security-sustainable-livelihoods/



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