Bajrasudha Gajanurak : 野生の象を野生に返す王室の秘薬

30/09/2021

Bajrasudha Gajanurak : 野生の象を野生に返す王室の秘薬

H.E. General Chalermchai Sitthisad (Ret.)

枢密院顧問官

Bajrasudha Gajanurak(パッチャラスター・カチャーヌラック)プロジェクトは、野生のゾウが本来の生息地で餌を十分に探すことが出来ないために、食料を求めて農地や家屋に侵入し地域社会と対立していることをお知りになった、ワチラロンコン国王陛下とスティダー王妃陛下の御懸念から始まりました。野生のゾウをそのような行動に追いやったのは食料が限られていることが要因です。結果として、特にタイ東部の5県、すなわちチャチュンサオ、チョンブリー、ラヨーン、チャンタブリー、サケオにおいて、ゾウと人間に生命の危険が及んでいます。プロジェクトを成功させるために、両陛下はパッチャラキティヤパー王女をプロジェクトの実行委員長に任命し、2019年8月2日に王室庇護のプロジェクトとして認可しました。

プロジェクト名は文字通り「ゾウをダイヤモンドのように強くする秘薬」という意味ですが、その真の目的は野生のゾウと人間の幸福、そして両者が共存できる微妙なバランスをとることにあります。

また、このプロジェクトは、地域社会自らが維持できる安全で永続的かつ実用的な解決方法によって、地元の人々とゾウが近接する生息地の資源を共有できる自然環境を作ることを目指しています。プロジェクトはプミポン前国王とシリキット王太后陛下が、天然資源の保護と東部5県の森林に隣接する地域社会の生活水準向上のために、生涯に渡って取り組んでこられた御活動に基づいています。

この目標を達成するために、東部5県の森林に隣接する地域を3つのゾーンに分けました。このゾーン分けは、人間と野生動物が共存するための持続可能な解決策となります。自然分離により、2つの世界はシームレスな移行が可能になります。したがって両者が対立するリスクは大幅に減少し、管理しやすくなります。ゾーンは野生のゾウが生息する森林保護区、動物と人間、両者のための緩衝地帯または中間地帯、そして地域社会ゾーンで構成されています。プロジェクトの開始以来、綿密な行動計画が実施されており、概要は以下の通りです。

1.ゾウのための森林保護区:このゾーン内の野生のゾウには、餌を求めて自然の生息地から外に出ていかなくてもいいように、専用の水源が確保されています。目標は合計60カ所、約180万立方メートルの大規模、中規模、及び小規模の水源を整備・建設することで、これまでに23カ所の水源が既に設置されています。

また、チャチュンサオ県のカオ・アンルーナイ野生生物保護区、チャンタブリー県のカオ・ソイダオ野生生物保護区などの森林保護地域での森林再生の取り組みにより、野生のゾウの自然の食料源を補うことができました。現在、15区画の草原が448ヘクタールの面積に広がっています。さらに野生のゾウや野生動物のために、適切な食用作物や食用植物も計算されて植えられています。これらには、ラヨーン県のカオ・チャマオ-カオ・ウォン国立公園と、チャチュンサオ県のカオ・アンルーナイ野生生物保護区を結ぶ自然回廊の、青々とした竹林、マンゴーやバナナなどの美味しい地元の果物、そして塩塊が含まれています。

写真: 国立公園・野生生物・植物保護局が管理するチャチュンサオ県

カオ・アンルーナイ野生生物保護区の草原(出典:王室事務局)

写真:サケオ県バーン・サルアンの「パッチャラスター・カチャーヌラック・プロジェクト」で

薬草を植える指定エリア(出典:Gajanurak Baan Sa Luang Faceboookページ)

2.緩衝地帯:さまざまな生態系をつなぐ自然の回廊が、野生のゾウの一時的な生息地となるように作られています。これらの緩衝地帯は、ゾウが地域社会へ採餌に行くのを阻止し、そこから安全に森林保護地帯へと誘導します。緩衝地帯には湿った草原があり、野生のゾウの食料源となっています。湿った土地を保つため、砂防ダムを設置して水の流れをコントロールしています。その結果、緩衝地帯はゾウだけでなく、バンテン、ガウル、インドバイソン、ホエジカなど、あらゆる種類の野生動物のための、栄養価の高い豊かな食糧貯蔵庫に生まれ変わりました。里山の中には、人間にも野生動物にも有用な生物多様性や作物の種が豊富に存在するため、緩衝地帯に転換された場所もあります。例えばフタバガキ、籐、インドカリンなどがそうした植物に挙げられます。さらに、家庭で使用するための赤ガランガル、コショウ、カルダモン、ウォーターチューブなど薬用植物も緩衝地帯に生息しています。また、ゾウが嫌がる香りの強い植物(アカシアやカッシアなど)を緩衝地帯の境界に巧妙に配置し、ゾウが地域社会に迷い込んで家屋に損害を与えることを防ぐための自然な境界線としています。

写真:王立森林局の管理下にあるチャチュンサオ県

サナム・チャイケット地区のバーンナヤオ貯水池(出典:王室事務局)

緩衝地帯内には、人工知能技術を搭載した総合的なゾウ監視システムが設置されています。これらはカチャーヌラック・オペレーションセンターと呼ばれ、自動カメラを介してゾウの動きを追跡および監視できます。 監視システムがゾウを発見すると「LINE」のチャットアプリケーションを使って地元の村人や、野生のゾウを自然の生息地に戻す役割を担うボランティアチームに警告信号が送信されます。最初のカチャーヌラック・オペレーションセンターは、国王陛下の私財によりラヨーン県のカオ・チャマオ国立公園に設立されました。その後、チャチュンサオ県のカオ・アンルーナイ野生生物保護区に同様のセンターが設立され、東部5県に設置された他の自動監視システムからの情報を記録・収集し、将来的に関連機関が連携するためのデータベースを作成しています。

3.地域社会ゾーン:このゾーンでは、地域社会の発展に加えて、野生のゾウの行動について地元の村人の認識を高め、理解を深めることに重点を置いています。これは、野生のゾウとの衝突のリスクを減らすために、村人が関連当局と協力し村人の参加を促すためにも必要です。また、地域社会ゾーンでは、野生のゾウを生息地に戻すために適切な方法を学ぶボランティアのためにトレーニングを支援しています。この目的のために8つの「カチャーヌラック村」(パイロット村)が設立され、さらに43の村がネットワークに加わり、パイロット村の活動をより広い範囲に拡大しています。現在このネットワークには、野生のゾウの採食被害を受けている299の村のうち、17%に当たる51の村が含まれています。さらに、国王・王妃両陛下は「カチャーヌラック基金」の設立や、ゾウの監視装置、警報装置、無線通信システム、ゾウとの遭遇の可能性を村人に知らせるボランティア用の照明等の購入資金のために、御寄付をなさいました。

このような地域社会開発活動により、自然保護や野生動物との共存について村人たちの理解が深まりました。村人たちは生活向上のための知識や技能を身につけ、村の資金管理もできるようになりました。また、地域社会の能力を強化すると同時に、東部5県の村人のための水源を回復し、持続可能な生活を維持するため、消費や農業に必要な水を蓄える活動もしています。このような取り組みを通じて村人たちは連帯感を持ち、単作から多作への移行など、さまざまな代替生計手段に関する知識を互いに共有しています。その結果、村人たちは33のグループや協会を設立し、多様な収入源から収入を得るために相互に助け合っています。これらには、カチャーヌラック村やネットワーク村での薬草作り、かご細工制作、食品加工業などが含まれます。このような地元のグループは、自然環境や野生生物と共存する持続可能な適応のモデルとなっています。このアプローチは、地域社会の生活の質を向上させると同時に、警戒・監視システムを利用して野生動物から身を守り、安心感を与えるものです。

Bajrasudha Gajanurak(パッチャラスター・カチャーヌラック)プロジェクトの実施は、プミポン前国王が御提唱なさったように、持続可能な方法で問題を根本的に解決しようとするもので、様々な面で前進してきました。今後の成功の鍵となるのはすべての利害関係者、特に地元の当事者意識です。とはいえ、ゾウと地域社会の対立は長年の問題であり、野生のゾウが村人の農地で採餌することに慣れてしまっているため、ゾウの行動を変え森に戻るように促すには、当然ながら時間がかかります。

効果のある秘薬を作るのは決して簡単ではありません。Bajrasudha Gajanurak プロジェクトの現在の成功が、多くの人々に変化をもたらす魔法の薬を探す一助となることを願っています。

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Chalermchai Sitthisad大将は、2018年10月2日に枢密院顧問官に任命され、現在、Bajrasudha Gajanurak(パッチャラスター・カチャーヌラック)プロジェクトを含む王室が後援する多様な事業を監督しています。Sitthisad 枢密院顧問官は、アーナンタマヒドン基金の委員会及び王室庇護下の教育奨学金委員会の委員を務めています。それ以前はタイ国軍の特殊作戦部隊の司令官、最高司令官補佐そして最高司令官を務めるなど、軍隊で多くの要職を担いました。